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業務の効率化が一般的である昨今、感情をコントロールすることで、機械的に作業を行うことが賢明であると考えている人は多くいます。単に感情をコントロールするといっても、その感情のコントロール方法はさまざまです。心理学者のポール・エクマンは、感情の表現には文化ごとの違いとルールがあることを指摘しています。エクマンは、ある文化特有の感情表現に関するルールを、ディスプレイ・ルール (display rule)と呼びました。エクマンは、顔の表情をコントロールする時にも、文化的なディスプレイ・ルールがあり、日本人とアメリカ人のディスプレイ・ルールでは大きな違いかあることを指摘しています。例えば、日本人は怒りや嫌悪などの不快な気持ちを、アメリカ人と比較すると表情に出さない (あるいは感情をコントロールする) 傾向があるとしています。近年は、企業や組織においてもディスプレイ・ルールがあると考えられ、組織における従業員の感情が関心を集めています。

岡部倫子氏は、フランスで航空MBAを、日本で博士を取得した経験を活かし、サービス企業と従業員の感情労働の研究を行っています。感情労働とは、肉体労働や頭脳労働とは異なり、サービス従業員が顧客に対応する際に、会社が規制するディスプレイ・ルールに従って、個人の感情をコントロールして適切な対応をする労働形態です。感情労働は、1983年にホックシールド氏が『The Managed Heart: Commercialization of Human Feeling (管理される心: 感情が商品となるとき)』において、客室乗務員の感情労働の分析を行って以来、広く知られるようになりました。従来は、客室乗務員、看護師、販売員などが、感情労働を行っていることが知られていました。しかし近年は、サービス経済の成長とサービス業に就業する人口の増加に伴い、どのような職業であっても、人とのコミュニケ―ションが必要な場合には、感情労働は必要となります。

岡部倫子氏によると、サービス従業員は顧客との対応の際に、企業から求められるような感情が自然に起こらない場合に、顧客を観客と見立て、自分の役割を演出するような感情のコントロール方法「感情戦略」を取ります。それは「表層演技」と「深層演技」です。表層演技とは、例えば内心では怒りを感じている場合でも、表面的には友好的にふるまい、役割を演出することを指します。他方で深層演技とは、怒りの感情が友好的な感情に変わるまで努力して修正し、役割を演出することを指します。深層演技は、自分の感情をより深くコントロールする必要があります。

岡部氏は、顧客に対応する際に「アフェクティブ・デリバリー」を用いることの効果を述べています。アフェクティブ・デリバリーとは、従業員が顧客対応の際に、ポジティブな表現を意識的に用いることにより、顧客の満足度を向上させる対応を指します。氏は、客室乗務員の職場におけるフィールド・ワークとアンケート調査から、アフェクティブ・デリバリーを多く用いる従業員は、サービス従業員が感じやすい感情のストレスを、最小限にとどめる効果があることを実証しています。そして氏は、アフェクティブ・デリバリーの活用は、顧客満足の向上のみならず、企業と従業員にとっても望ましい対応であるとしています。近年、感情労働を必要とする職業が増えており、感情のコントロールを考えることは、ますます重要となるでしょう。

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